散瞳薬・調節麻痺薬とは
「散瞳薬(さんどうやく)」とは、目の中央にある黒目の部分(瞳孔)を一時的に大きく広げるお薬です。瞳孔が開くと、医師が目の奥(眼底)をのぞき込みやすくなります。眼科で「目薬を点して、しばらく待合室でお待ちください」と言われたことがある方は、この散瞳薬を使った経験があるかもしれません。
「調節麻痺薬(ちょうせつまひやく)」は、ピント合わせをつかさどる目の中の筋肉のはたらきを一時的に休ませるお薬です。子どもの目の度数を正確に測るときなどに使われます。多くの場合、瞳孔を広げる作用とピント調節を休ませる作用は重なり合っており、これらをまとめて「散瞳薬・調節麻痺薬」と呼んでいます。
このお薬は、病気そのものを治すというよりも、正確な検査や診断のための「準備」として使われることが多いのが特徴です。後ほど詳しくご説明しますが、近視の進行を抑える目的で使われるタイプもあります。
どんなしくみで効くのか
私たちの瞳孔は、明るい場所では小さく、暗い場所では大きくなり、入ってくる光の量を自動で調節しています。また、近くを見るときには目の中の筋肉(毛様体筋)がはたらいて、レンズ(水晶体)の厚みを変え、自動でピントを合わせています。
散瞳薬・調節麻痺薬は、これらを動かしている神経のはたらきに一時的に作用します。
- 瞳孔を広げる(散瞳):瞳孔を開く方向の筋肉を刺激したり、閉じる方向の筋肉を休ませたりして、黒目を大きく広げます。すると目の奥まで光が届きやすくなり、眼底をすみずみまで観察できます。
- ピント合わせを休ませる(調節麻痺):近くを見るときにはたらく筋肉を一時的に休ませます。これにより、目が無理にピントを合わせようとする力を取り除き、本来の度数を正確に測れます。
つまり、ふだんは自動で動いている「瞳孔」と「ピント合わせ」を、検査や治療のあいだだけ一時的にお休みさせるお薬だとイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。効き目が切れれば、もとの状態に戻ります。
主な薬の種類
ここでは、代表的なお薬を商品名(一般名)の形でご紹介します。
| 商品名(一般名) | 主な使われ方 |
|---|---|
| ミドリンP(トロピカミド+フェニレフリン) | 眼底検査の前に瞳孔を広げる。比較的早く効き、効き目もそれほど長く続かない |
| アトロピン点眼(アトロピン) | 瞳孔を広げる・ピント合わせを休ませる作用がしっかりしており、効果が長く続く。子どもの度数測定などに |
このほか、近視の進行を抑える目的で使われる低濃度アトロピン(リジュセア、マイオピンなど)があります。これも同じアトロピンですが、検査用とは目的も濃度も異なり、主に小児(お子さん)を対象として処方されます。近視の進行をゆるやかにすることを目指すお薬で、点眼を続けながら定期的に経過をみていきます。効果のあらわれ方には個人差があり、すべてのお子さんに同じように効くわけではありません。
それぞれのお薬は、検査の内容やお子さんの年齢などに応じて、眼科医が選びます。
どんなときに使うか(適応)
散瞳薬・調節麻痺薬は、主に次のような場面で使われます。
- 眼底検査の前:瞳孔を広げて、網膜や視神経など目の奥のようすをくわしく調べます。糖尿病の合併症や眼底の病気の早期発見にも役立ちます。
- 正確な度数の測定:とくにお子さんでは、目が自分でピントを合わせてしまうため、調節を休ませてから本来の度数を測ります。メガネを正しく合わせるために大切な検査です。
- 目の炎症(ぶどう膜炎など)の治療:瞳孔を広げておくことで、目の中の組織が癒着するのを防いだり、痛みをやわらげたりする目的で使われることがあります。
- 近視の進行抑制:低濃度アトロピンを、主にお子さんの近視がこれ以上進みにくくなることを目指して使うことがあります。
「目の奥をしっかり診たい」「正確に検査したい」というときに欠かせない、いわば縁の下の力持ちのようなお薬です。
副作用・注意点
このお薬で多くの方が経験する、特徴的な注意点があります。自己判断で点眼を続けたり中止したりせず、必ず眼科医の指示に従ってください。
検査後はまぶしく、近くが見えにくくなります
検査で瞳孔を広げると、効き目があるあいだは光がたくさん入ってくるため、数時間〜半日ほど「まぶしい」「近くがぼやけて見えにくい」状態が続きます。これは効果がしっかり出ている証拠で、時間がたてば自然にもとに戻ります。
このため、散瞳した日はご自分で車やバイク・自転車を運転しないでください。 検査を受ける日は、公共交通機関を利用するか、ご家族に送迎をお願いするなど、あらかじめ準備しておくと安心です。外に出るときはサングラスがあるとまぶしさをやわらげられます。
そのほかの注意点
- 緑内障のタイプによっては注意が必要な場合があります。持病のある方は、必ず受診時に医師へお伝えください。
- まれに、目の刺激感、一時的なまぶしさ以外の見えにくさ、動悸などを感じることがあります。気になる症状があれば早めに眼科医にご相談ください。
- 効果や副作用のあらわれ方には個人差があります。
上手な使い方
ご自宅で点眼を続けるタイプ(近視抑制の低濃度アトロピンなど)を使う場合は、次の点を意識すると上手に続けられます。具体的な回数や量は、必ず処方時の指示に従ってください。
- 点眼の前後には手をきれいに洗います。
- 容器の先が、まつ毛やまぶた、指などに触れないように気をつけます(雑菌が入るのを防ぐため)。
- 点眼後はまぶたを軽く閉じ、目頭(鼻の付け根側)を1分ほど指で軽く押さえると、お薬が目にとどまりやすくなります。
- ほかの目薬と併用するときは、5分ほど間隔をあけてから次を点します。
- 決められた間隔で続けることが大切です。自己判断でやめたり量を変えたりせず、わからないことは眼科医や薬剤師に相談しましょう。
よくある質問
Q. 検査で目薬をさしたあと、いつから運転できますか? A. 効き目には個人差がありますが、まぶしさや近くの見えにくさが続くあいだ(おおよそ数時間〜半日ほど)は運転を避けてください。検査当日はご自分で運転せずに来院されることをおすすめします。見え方が完全にもとに戻ってから運転するようにしましょう。
Q. 近視を抑える目薬は大人にも使えますか? A. 近視の進行抑制を目的とした低濃度アトロピンは、主にお子さんを対象に使われます。大人の近視への使い方とは異なりますので、適応については眼科医にご相談ください。
Q. 散瞳薬は毎回さしても大丈夫ですか? A. 眼底検査のたびに散瞳薬を使うことはよくあり、医師の管理のもとで使う分には心配いりません。ただし持病やほかのお薬がある方は、その都度医師にお伝えください。
このページは一般的な情報をまとめたものです。お薬の効果や副作用のあらわれ方には個人差があります。気になる症状があるときや、点眼を続けてよいか迷うときは、自己判断で中止せず、眼科医に相談・受診されることをおすすめします。