「白内障の手術をしたのに、また見えにくくなってきた」「せっかく手術したのに白内障が再発したの?」――白内障手術から数か月〜数年たって、再び視界がかすむと、こう不安になる方は少なくありません。
その多くは 後発白内障(こうはつはくないしょう) と呼ばれる状態で、白内障の再発ではありません。そして、その治療として行われるのが、このページでご説明する YAGレーザー後嚢切開術 です。外来でレーザーを当てるだけの治療で、所要は数分ほど、痛みもほとんどなく、多くの方が治療後すぐに見え方の改善を実感されます。
このページでは、患者さんからよくいただく「これは再発なの?」「痛くないの?」「どんな流れで進むの?」「費用はどのくらい?」といったご質問にお答えする形で、YAGレーザー後嚢切開術の全体像を整理してご説明します。
白内障手術そのものの流れは 白内障手術の解説ページ を、白内障という病気そのものについては 白内障の解説ページ もあわせてご覧ください。
後発白内障とは:なぜ手術後にまた曇るのか
白内障手術では、濁った水晶体の中身を取り除き、水晶体の袋(後嚢:こうのう) を残して、その中に眼内レンズ(IOL)を入れます。この残した袋がレンズの支えになります。
ところが、手術のときに袋にわずかに残った水晶体の細胞が、時間をかけて袋の上で増えたり変化したりすると、透明だった後嚢が再び濁ってくる ことがあります。これが後発白内障です。レンズの後ろにすりガラスのような膜が広がるようなイメージで、光がうまく通らなくなり、見え方がかすみます。
後発白内障は、白内障手術後で 最も頻度の高い晩期合併症 とされ、手術後5年ほどでおよそ2〜3割 の方に起こると報告されています。若い方や、ぶどう膜炎・糖尿病のある方ではやや起こりやすい傾向があるとされますが、起こりやすさには個人差があります。
「白内障の再発」ではありません
ここがいちばん大切な点です。後発白内障は、取り除いた水晶体そのものが再び濁ったわけではありません。一度取り出した水晶体が元に戻ることはありません。濁るのは、あくまでレンズを支えるために残した「袋(後嚢)」の部分です。
ですから、「また白内障になった」「手術が失敗した」というものではなく、白内障手術後に一定の割合で起こりうる、想定された経過の一つです。そして治療は、もう一度大きな手術をするのではなく、外来でのレーザー治療で済むことがほとんどです。過度に心配する必要はありませんので、「また見えにくくなってきた」と感じたら、まずは眼科でご相談ください。
どんなときに治療するか
後発白内障があっても、見え方に困っていなければ、必ずしもすぐに治療する必要はありません。濁りの程度が軽く、生活に支障がなければ、急いでレーザーを行わず経過を見ることもあります。治療を検討するのは、後発白内障による濁りで 日常生活に不便を感じている ときです。
YAGレーザーを考えるサイン・セルフチェック
白内障手術を受けたあとに、次のような『手術直後にはなかった見えにくさ』がゆっくり戻ってきていないかを確認してみましょう。当てはまるほど、後発白内障による濁りの可能性があります。
白内障手術のあと一度よく見えるようになったのに、その後しばらくして、また視界がかすむ・もやがかかる感じが出てきていませんか?
後発白内障は、手術後に一度クリアになった見え方が、数か月〜数年かけて再びゆっくり曇ってくるのが特徴です。手術直後から続く見えにくさや、急な視力低下は別の原因のこともあるため、自己判断せず眼科で確認してもらいましょう。
手術後に一度改善した見え方が再びかすんできて、生活に不便を感じる場合は、後発白内障の可能性があります。レーザー治療が必要かどうかは、眼科の検査で確認してもらいましょう。
急に見えにくくなった・視野が欠ける・黒い点や影が急に増えた・光が走って見える場合は、後発白内障とは別の病気の可能性もあるため、早めに眼科を受診してください。
これは簡易的なチェックであり、診断ではありません。気になる症状が続く場合は眼科で確認しましょう。
注意していただきたいのは、手術後の「見えにくさ」は後発白内障だけが原因とは限らない、という点です。緑内障や加齢黄斑変性、糖尿病網膜症など、ほかの目の病気でも見えにくさは起こります。本当に後発白内障による濁りなのか、レーザー治療で改善が見込めるのかは、眼科での診察によって確認する必要があります。
YAGレーザー後嚢切開術とは
YAGレーザー後嚢切開術は、濁った後嚢に YAGレーザー で小さな窓(穴)を開け、視線の通り道(視軸)にある濁りを取り除く治療です。メスで切ったり、注射をしたりはせず、外来で、目に触れずに行える のが大きな特徴です。
レーザーで後嚢の中央付近をくり抜くように開けると、その部分だけ光がまっすぐ通るようになり、かすみが改善します。すりガラスを通して見ていた状態から、その真ん中に透明な窓が開くようなイメージです。
入院は不要で、点眼麻酔のみで行えます。所要時間は片眼 数分程度 のことが多く、痛みもほとんどありません。多くの場合、治療後しばらくすると見え方の改善を実感できますが、回復の感じ方や時期には個人差があります。
治療の流れ
ここでは、当日の一般的な流れをご説明します。手順や使う薬、治療後の通院スケジュールは施設や目の状態によって異なるため、あくまで目安としてご覧ください。
- 1
診察・適応の確認
見えにくさの原因が後発白内障の濁りによるものかを診察で確認します。見えにくさには別の病気が隠れていることもある ため、後嚢の濁り具合や眼内レンズの状態、眼底などをあわせて確認したうえで、レーザーが適しているかを判断します。
- 2
散瞳(瞳を広げる)
点眼薬で瞳孔を広げ、後嚢がよく見える状態にします。散瞳の効果でまぶしさやピントの合いにくさがしばらく続くため、当日はご自身での車・バイク・自転車の運転は避けて いただきます。
- 3
YAGレーザー照射
点眼麻酔をして、診察用の接眼レンズ(コンタクトレンズ)を当て、機械に顔を乗せた姿勢でレーザーを照射します。濁った後嚢に小さな窓を開ける だけで、痛みはほとんどありません。照射のたびに軽い音や光を感じる程度で、所要は数分ほどです。
- 4
治療後の確認
治療後に 眼圧を確認することがあります。一時的に眼圧が上がることがあるため、それを抑える点眼を使うこともあります。点眼の指示があれば、自己判断でやめず、指示どおりに使ってください。
- 5
帰宅・経過観察
日帰りで帰宅できます。散瞳が残るうちは見えにくいため付き添いがあると安心です。治療後しばらくは飛蚊症(黒い点が飛ぶ)を感じることがありますが、多くは徐々に気にならなくなります。ただし、後述の危険なサインが出た場合はすぐに受診 してください。
費用の目安
費用は すべて概算の目安 です。施設・地域・診療報酬改定の年度・所得区分によって変わります。正確な額は、受診先の医療機関にご確認ください。YAGレーザー後嚢切開術は 保険診療 で行われ、片眼あたりの自己負担の目安は、3割負担でおよそ5,000〜7,500円前後 とされますが、検査や薬の費用が別にかかることもあります。
費用の目安(片眼・負担割合別の概算)
すべて概算の目安です。費用は施設・所得区分・年度により変わります。検査料や点眼薬の費用が別にかかることがあり、高額療養費制度の対象になる場合は実際の負担がさらに下がることもあります。
| 負担割合 | 自己負担の目安(片眼) |
|---|---|
| 1割負担 | 約2,000円前後 |
| 2割負担 | 約3,000〜5,000円前後 |
| 3割負担 | 約5,000〜7,500円前後 |
白内障手術そのものの費用やレンズの選び方については、白内障手術の解説ページ もあわせてご覧ください。
リスク・治療後の注意点
YAGレーザー後嚢切開術は、外来で安全に行える治療として広く普及していますが、ゼロリスクではありません。まれですが、次のようなことが起こりえます。
| リスク | 内容・対処 |
|---|---|
| 一時的な眼圧上昇 | 治療後に一時的に眼圧が上がることがあり、多くは点眼で対処します。治療後に眼圧を確認することがあります |
| 飛蚊症(黒い点が飛ぶ) | 治療後にしばらく感じることがあり、多くは徐々に気にならなくなります |
| 眼内レンズの傷・くもり | レーザーがレンズに当たり、ごくわずかな点状の跡が残ることがありますが、見え方への影響は通常ほとんどありません |
| 黄斑浮腫 | まれに治療後に網膜の中心(黄斑)がむくみ、見えにくさが出ることがあります |
| 網膜剥離 | ごくまれですが、治療後に起こりうる重い合併症です。強度近視の方ではやや起こりやすいとされます |
施行後にこのサインが出たら、すぐ受診を
最も注意していただきたいのは、ごくまれに起こる 網膜剥離(もうまくはくり) です。頻度は低いものの、放置すると視力に関わるため、初期のサインを知っておくことが大切です。
治療後しばらくして、飛蚊症(黒い点や糸くずのようなものが飛ぶ)が急に増えた、光が走るように見える(光視症)、視界の一部にカーテンや影がかかる、急に見えにくくなった ――こうした症状が出たときは、後発白内障とは別の問題が起きているサインのことがあります。「治療したばかりだから様子を見よう」と我慢せず、できるだけ早く、治療を受けた眼科に連絡して受診 してください。網膜剥離は、早く見つけて対処することが何より大切です。
治療後しばらく心がけること
- 処方された点眼がある場合は、指示どおりの回数・期間きちんと続ける
- 散瞳が残るうちは、まぶしさや見えにくさがあるため車・バイク・自転車の運転を避ける
- 治療後しばらくの軽い飛蚊症は様子を見てよいことが多い(ただし下記の変化に注意)
- 目をこすらない・強くぶつけないようにする
- 次の受診や検査の指示があれば、その予定を守る
すぐに眼科へ(治療後の危険サイン)
- 飛蚊症(黒い点・糸くず)が急に増えた
- 光が走るように見える(光視症)
- 視界の一部にカーテンや影がかかってきた
- 急に見えにくくなった・視野が欠けてきた
- これらは網膜剥離などのサインのことがあり、早めの受診が必要です
なお、YAGレーザー後嚢切開術で 一度窓を開けた後嚢が、再び濁って治療をやり直すことは、通常ほとんどありません。後発白内障の治療は、多くの場合この一回の治療で済みます。
よくある質問
Q これは白内障の再発ですか?手術が失敗したのでしょうか?
Q YAGレーザーの治療は痛いですか?
Q 治療したらすぐによく見えるようになりますか?
Q 治療後、生活で気をつけることはありますか?
Q 後発白内障があると言われましたが、必ず治療しないといけませんか?
Q YAGレーザーで治したあと、また濁って治療をやり直すことはありますか?
Q 費用はどのくらいかかりますか?
YAGレーザー後嚢切開術は、白内障手術後に再びかすむ後発白内障を、外来で短時間に治す治療です。後発白内障は白内障の再発ではなく、レーザー治療で対応できることがほとんどですので、過度に心配する必要はありません。
ただし、ごくまれに網膜剥離などの合併症が起こることがあります。治療後に飛蚊症が急に増える・光が走る・視界に影がかかるといった変化を感じたら、我慢せず、できるだけ早く眼科を受診してください。
「手術したのに、また見えにくい」と感じたら、それは後発白内障かもしれません。原因や治療の必要性は眼科の検査で確認できますので、まずは一度ご相談ください。白内障手術そのものの流れは 白内障手術の解説ページ、白内障という病気については 白内障の解説ページ もあわせてご覧ください。