「泣いていないのに涙があふれて、いつも目尻を拭いている」「片目だけ目やにが多い」――こうした涙目の悩みは、決して珍しいものではありません。けれども「涙が出る」といっても、その原因は一つではありません。
涙目には大きく 2つの方向 があります。ひとつは目の表面が 乾く刺激で反射的に涙が増える タイプ(分泌過剰型)、もうひとつは作られた涙が 鼻へうまく流れずにあふれる タイプ(流出障害型)です。このページでお話しする涙道手術は、後者――涙の通り道(涙道)がつまってしまったケースに対する治療です。
大切なのは、涙目=すぐ手術ではなく、まず原因を眼科で調べること です。乾くから出ているのか、流れずにあふれているのかで、必要な治療はまったく変わります。乾き・しみる・ゴロゴロ感が主体の方は、涙道のつまりではなく ドライアイの解説 もあわせてご覧ください。
涙道手術とは
まず、涙がどこを通って流れているのかを整理しましょう。涙は「出すぎている」のではなく、「出口の流れが悪い」ことで目にあふれてくることがあります。
- 涙はつねに少しずつ作られ、瞬きで目の表面を潤している余分な涙は目頭にある涙点から吸い込まれていきます
- 涙の通り道(涙道):涙点 → 涙小管 → 涙嚢 → 鼻涙管 → 鼻の奥 へと流れ出るこの一連の通り道をまとめて「涙道」と呼びます
- どこかが狭窄(細くなる)・閉塞(ふさがる)すると、涙が鼻へ流れず目にあふれるこれが「流涙」で、涙が多すぎるのではなく出口がつまった状態です
- 涙道に涙がたまると細菌が停滞し、目やにが増えたり涙嚢炎を起こしたりすることがある涙嚢は目頭から約1cm下にあり、ここに膿がたまることがあります
涙道手術は、この つまった通り道を再び通す ための手術です。そして、狭窄・不完全閉塞 なのか、完全に閉塞 しているのかによって、選ばれる手術の方法が分かれます(くわしくは後述の「チューブ挿入術とDCRの使い分け」)。
あなたの涙目はどのタイプ?
涙目で悩む方にまず知っていただきたいのが、自分の涙目がどちらのタイプか という視点です。ここを取り違えると、必要のない手術を心配したり、逆に必要な治療が遅れたりすることがあります。
涙目の原因は、大きく次の2つに分けられます。
- 分泌過剰型:結膜炎・花粉症・逆さまつげなどの刺激で涙が増えるタイプ。ドライアイの反射性流涙 もここに含まれます。
- 流出障害型:涙道閉塞・涙点の狭窄や閉塞・結膜弛緩症・眼瞼内反・加齢によるまぶたのゆるみや外反(涙を流すポンプ機能の低下)など、作られた涙がうまく流れないタイプ。このうち涙道(本幹)のつまりが涙道手術の対象です。ただし、涙点の狭窄やまぶたの外反が原因の場合は、涙点を広げる処置やまぶたのゆるみ・外反を矯正する手術など、涙道手術とは異なる治療が選ばれることがあります。
意外に思われるかもしれませんが、ドライアイでも涙目になることがあります。目の表面が乾く刺激で反射的に涙の分泌が増え(反射性流涙)、かえって涙があふれてしまうのです。ですから「乾くのに涙が出る」という方は、涙道手術ではなく ドライアイの治療が先 になることがあります。
見分けの目安としては、次のような点があります。
- 目やにの有無:涙道がつまると、片目の目やにが増えやすくなります。
- 片目か両目か:片側だけに強い流涙は、その側の涙道閉塞を示唆することがあります。
- しみる・ゴロゴロ・乾き感:こうした不快感が主体なら、ドライアイ寄りのことがあります。
ただし、これらは見た目だけで判断がつくものではありません。眼科の検査(涙管通水検査など)で原因を確かめたうえで、原因に応じた治療を選ぶことが大切です。乾き・しみる感が気になる方は、まず ドライアイの解説 もご覧ください。
適応:こんな場合に手術を検討
ここでは、涙道のつまりを疑うサインをセルフチェックでまとめます。次の項目は、目が「乾くドライアイ」ではなく「涙が流れずにあふれる」タイプに特徴的なものです。
涙道のつまりを疑うサイン・セルフチェック
次の項目は、目が『乾くドライアイ』ではなく『涙が流れずにあふれる』タイプに特徴的なサインです。当てはまるほど、涙道のつまりが疑われます。
泣いていないのに、とくに片目だけ涙があふれて、目尻や頬をよく拭きますか?
涙道がつまると涙が鼻へ流れず、常にあふれてきます。とくに片目だけに強い場合、その側の涙道閉塞が疑われます。乾く感じが主体のドライアイとは原因も治療も異なります。
片目に偏った流涙や、目頭を押すと膿が出る場合は涙道閉塞の可能性があり、眼科での涙道検査(涙管通水検査など)がすすめられます。受けるかどうかは検査結果をふまえて主治医とご相談ください。
目頭の内側が赤く腫れて強い痛みがある・発熱をともなう場合は、急性涙嚢炎の疑いがあり、早めに眼科を受診してください。
これは簡易的なチェックであり、診断ではありません。気になる症状が続く場合は眼科で確認しましょう。
ここで一点ご注意を。乾くのに涙が出る場合は、ドライアイの反射性流涙 かもしれません。乾き・しみる・ゴロゴロ感が主体なら、まず ドライアイの解説 をご覧ください。涙道手術は「涙を流す」治療で、ドライアイの「涙をためる」治療とは目的が逆です。
検査:閉塞の場所と程度を調べる
手術の前には、どこがどの程度つまっているのかを調べます。これによって、チューブで対応できるのか、新しい通り道を作る必要があるのかが見えてきます。
- 涙管通水検査涙点から生理食塩水を流し、鼻やのどまで通るかどうかで閉塞・狭窄を確認します
- 涙道内視鏡検査とても細い内視鏡を涙道に入れ、閉塞・狭窄の部位を直接観察します。手術中の治療(開放・チューブ留置)にも使われます
- CT検査必要に応じて、閉塞部位や周囲の状態を確認するために行うことがあります
検査の内容は、施設や目の状態によって異なります。乾きが主体のドライアイなど、ほかの原因がないかもあわせて確認します。
手術の流れ
ここでは、涙管チューブ挿入術を主軸に、検査から抜去・経過観察までの一般的な流れをご説明します。通院回数やスケジュールは施設によって異なるため、あくまで目安としてご覧ください。
- 1
涙道の検査で原因と部位を確認
涙管通水検査で水が鼻へ通るかを調べ、必要に応じて涙道内視鏡やCTで 閉塞している場所と程度 を確認します。乾きが主体のドライアイなど、ほかの原因がないかもあわせて見極めます。
- 2
術式を決める(つまり方で分かれる)
狭窄・不完全閉塞 なら涙管チューブ挿入術、完全にふさがっている 場合は涙嚢鼻腔吻合術(DCR)が基本です。どちらが向くかは閉塞の部位・程度によって異なります。
- 3
手術当日:涙管チューブ挿入術
点眼や局所の麻酔のもと、涙道内視鏡で閉塞部を確認しながら開放し、涙点から鼻腔まで やわらかいシリコンのチューブを留置 して通り道を保ちます。多くは日帰りで行われますが、所要時間・麻酔・入院の要否は施設や状態によって異なります。
- 4
チューブを留置する期間
チューブが入っている間も、日常生活への支障は少ないとされます。処方された点眼を続け、目頭を強くこすらないようにします。期間は状態によって前後します。
- 5
チューブの抜去
涙道が通るようになったら、外来でチューブを抜きます。短時間で終わることが多いです。
- 6
抜去後の経過観察
抜いたあとに 再びつまる(再閉塞) ことがないか、通水検査などで定期的に確認します。再発した場合の対応は主治医と相談します。
費用の目安
費用は すべて概算の目安 です。術式・施設・麻酔・入院日数・所得区分・診療報酬改定により変わります。正確な額は受診先や加入する保険者にご確認ください。治療目的の涙道手術は、いずれも公的医療保険の対象です。
費用の目安(片眼・3割負担の概算)
すべて概算の目安です。術式・施設・麻酔・入院日数・所得区分・診療報酬改定により変わります。正確な額は受診先や加入する保険者にご確認ください。
| 術式 | 主な対象 | 入院 | 費用の目安(3割) |
|---|---|---|---|
| 涙管チューブ挿入術 | 狭窄・不完全閉塞 | 日帰りが中心 | 約1.3〜1.5万円前後 |
| 涙嚢鼻腔吻合術(DCR) | 完全閉塞・再発例 | 日帰り〜数日入院 | 約7万円〜(高額療養費の対象になることも) |
もう少し詳しく見ていきましょう。いずれも目安であり、施設や状態によって異なります。
- いずれも公的医療保険の適用治療目的の場合、原則3割/2割/1割負担です
- チューブ挿入術とDCRでは桁が変わることがあるチューブ挿入術は手術手技料だけなら3割で約7千円前後、検査・麻酔などを含めると約1.3〜1.5万円台になることが多い一方、DCRは手技料だけで3割約7万円〜と、術式の選択で負担が大きく変わります。表示はいずれも初再診・検査・麻酔・材料・入院料を含めた概算の目安です
- 入院の有無で総額が変わるチューブ挿入術は多くが日帰り、DCRは1泊2日程度の入院となる施設もあります。差額ベッド代・食事代は別です
- 高額療養費制度の対象DCRのように高額になりやすい手術は対象です。70歳未満は同一医療機関・同一月の窓口負担が所得区分に応じた限度額までとなり、限度額適用認定証やマイナ保険証を使えば窓口負担を抑えられます(差額ベッド代・食事代は対象外)
- 自費で行う施設もある一部のクリニックが鼻内視鏡によるDCRを自費(片眼45万円前後はあくまで施設により大きく異なる一例)で提供することがあり、その場合は保険・高額療養費の対象外です。施設の保険/自費の区分を事前に確認することが大切です
費用には個人差があり、最終的な金額は受診する医療機関でご確認ください。
チューブ挿入術とDCRの使い分け
涙道手術には主に2つの方法があり、つまりの「程度」 によって使い分けます。細い・部分的につまっているならチューブ、完全にふさがっていれば新しい通り道を作る、というのが基本の考え方です。
チューブ挿入術とDCR、どう違う?
つまりの『程度』で術式が分かれます。細い・部分的につまっているならチューブ、完全にふさがっていれば新しい通り道を作るDCRが基本です。どちらになるかは検査結果をふまえて主治医が判断します。
シリコンのチューブを涙道に通して一定期間留置し、通り道を保って再び涙が流れるようにする方法です。
見分け方 涙道が細い・部分的につまっている段階に向きます。
対処 体への負担が小さく日帰りが中心。通常2〜3か月後にチューブを抜きます。DCRに比べると、抜いたあとに再びつまることがやや多いとされます。
涙嚢と鼻腔の間の薄い骨を削り、つまった鼻涙管を迂回する新しい通り道(バイパス)を作る手術です。
見分け方 鼻涙管が完全にふさがってチューブが通せない場合や、チューブ挿入術のあとに再発した場合に選ばれます。
対処 骨を削るぶん負担はやや大きいものの、治る確率は高いとされます。皮膚を切る鼻外法と、鼻の中から行い皮膚を切らない鼻内法(鼻内視鏡法)があります。
それぞれの「向いているタイプ」と「特徴」をより細かく並べると、次のように整理できます。
チューブ挿入術とDCRの比較
いずれも目安です。向き不向きや治りやすさには個人差があり、最終的には検査結果をふまえて主治医が判断します。
| 比較の軸 | 涙管チューブ挿入術 | 涙嚢鼻腔吻合術(DCR) |
|---|---|---|
| 主な対象 | 狭窄・不完全閉塞 | 完全閉塞・再発例 |
| 体への負担 | 小さい | やや大きい(骨を削る) |
| 入院 | 日帰りが中心 | 日帰り〜数日(施設による) |
| 治りやすさ | DCRよりやや劣ることがある | 高いとされる |
| 再びつまる可能性 | 抜去後に起こることがある | 比較的少ないとされる |
| 顔の傷 | なし | 鼻外法はわずかに残ることがある/鼻内法は皮膚を切らない |
どちらが向いているかは、閉塞の部位・程度や全身の状態によって異なります。検査結果をふまえて、主治医とよく相談して決めましょう。
手術後の生活と注意
涙道手術のあとは、しばらく守っていただきたいセルフケアがあります。一方で、急性涙嚢炎 のような緊急性の高いサインもあるため、両方をしっかり確認しておきましょう。
術後しばらく守ること(セルフケア)
- 処方された点眼・点鼻を、指示どおりの回数・期間きちんと続ける
- チューブが入っている間は、目頭を強くこすらない・引っぱらない
- 鼻を強くかまない(とくにDCRのあとは注意する)
- 長湯・激しい運動・飲酒は、医師の許可が出るまで控える
- 涙や目やにはやさしく拭き、目のまわりを清潔に保つ
すぐに眼科へ(急性涙嚢炎などの危険サイン)
- 目頭の内側が赤く腫れ、強い痛みがある
- 発熱をともなう・腫れが頬のほうまで広がってきた
- 目頭から膿が出る
- チューブが目に見えて出てきた・外れた
- 出血が止まらない・鼻血が続く(DCRのあと)
- これらは急性涙嚢炎や感染のサインのことがあり、早急な受診・抗菌薬が必要になります
急性涙嚢炎は緊急性が高い病気です。 重症になると周囲に炎症が広がることもあるため、「夜だから」「明日まで様子を見よう」と我慢せず、目頭の強い腫れ・痛み・発熱を感じたら、時間外でもすぐに連絡・受診してください。
治療は抗菌薬が基本ですが、膿がたまって膿瘍になった場合は、抗菌薬に加えて切開して膿を出す処置(切開排膿)が必要になることがあります。また、急性の炎症が強い時期はDCRなどの根治手術を急がず、まず炎症を抑えてから手術の時期を相談する のが一般的です。実際の対応は状態によって異なるため、主治医の判断に従ってください。
リスク・合併症
涙道手術は広く行われている手術ですが、ゼロリスクではありません。まれですが、次のような合併症が起こりえます。出方には個人差があり、詳しくは担当医にご確認ください。
| リスク | 説明・対処 |
|---|---|
| 再閉塞・再発 | とくにチューブ抜去後に起こることがあります。再発時は再度のチューブ挿入やDCRを検討します。 |
| チューブの脱落・ずれ | チューブが外れたり位置がずれたりすることがあります。気づいたら受診してください。 |
| 出血・鼻出血 | とくに骨を削るDCRで、鼻からの出血が起こることがあります。 |
| 感染・急性涙嚢炎 | 涙道や周囲に感染が起こることがあります(前章の緊急サインを参照)。 |
| 涙小管などの損傷 | まれに涙の通り道を傷つけることがあります。 |
| 皮膚の傷あと | DCRの鼻外法では、目頭付近にわずかに傷が残ることがあります。 |
| 麻酔に関連した合併症 | 局所・全身麻酔それぞれに、まれな合併症があります。 |
ここで正直にお伝えしておきたいのが、再発の可能性 です。涙道手術は治る確率の高い手術ですが、とくにチューブ挿入術では、チューブを抜いたあとに再びつまる方もいます。再発した場合の対応もありますので、過度に心配する必要はありませんが、気になる症状が出たら早めに受診してください。
よくある質問
Q 涙が止まらないのは、ドライアイですか?涙道のつまりですか?
Q 涙目で受診するなら、何科に行けばいいですか?
Q 涙道のつまりは、手術しないと治りませんか?放置するとどうなりますか?
Q つまっているかは、どんな検査でわかりますか?
Q 涙道の手術にはどんな種類があり、自分はどちらになりますか?
Q 手術は痛いですか?入院は必要ですか?
Q 入れたチューブはいつ抜きますか?入っている間の生活で気をつけることは?
Q 手術しても、また再発(再びつまる)ことはありますか?
Q DCR(涙嚢鼻腔吻合術)では、顔に傷あとが残りますか?
Q 手術費用はどのくらいかかりますか?保険は使えますか?
Q 手術後、仕事や入浴・運動はいつから再開できますか?
Q 手術してどのくらいで涙の症状は改善しますか?
Q 目頭が赤く腫れて痛い・膿が出ます。すぐ受診すべきですか?
涙目は「乾くから出る」場合も「流れずあふれる」場合もあり、原因によって治療がまったく逆になります。だからこそ、自己判断せず、まずは眼科で涙道の検査を受けて原因を確かめることが大切です。
涙の出方が気になる方は、次のページもあわせてご覧ください。乾き・しみる感が主体の方は ドライアイの解説 を、見え方ではなく涙の悩みが続く方は、原因に応じた治療を眼科でご相談ください。