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線維柱帯切除術(緑内障手術)|費用・流れ・リスクを眼科医が解説

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目次
  1. 線維柱帯切除術とは
  2. 適応:いつ手術を検討するか
  3. 手術の流れ
  4. 費用の目安
  5. 他の緑内障治療との位置づけ
  6. 手術後の生活
  7. リスク・合併症
  8. よくある質問
  9. 受診のときに、主治医に聞いておくとよいこと

「点眼を続けてきたのに『そろそろ手術を』と言われた」「目を切る手術が怖い」「手術すれば視野は戻るの?」――線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)は、緑内障で最も標準的な手術ですが、いざ自分が受けるとなると不安は当然です。

最初に、最も大切なことをお伝えします。この手術は、狭くなった視野や落ちた視力を回復させる手術ではありません。 緑内障で一度傷んだ視神経は元に戻らず、失われた視野が戻ることはありません。目的は、眼圧を大きく下げて、これ以上の進行に強くブレーキをかける こと。「治す」ではなく「進行を止める・遅らせる」ための手術です。それでも、進行を食い止める意義は非常に大きい手術です。

緑内障は40歳以上の約20人に1人がもつ身近な病気で、適切に眼圧をコントロールできれば、生涯にわたり不自由なく過ごせる方が大半です。手術はそのための有力な手段の一つです。

このページでは「どんな手術?」「いつ受ける?」「費用は?」「他の治療とどう違う?」「術後の生活は?」を、よくいただくご質問に沿って整理してご説明します。緑内障そのものは 緑内障の解説ページ、より負担の軽い治療は 緑内障のレーザー治療(SLT)MIGS(低侵襲緑内障手術) もあわせてご覧ください。

線維柱帯切除術とは

緑内障は、目の中を満たす水(房水)の出口=線維柱帯 という排水溝が目詰まりし、房水がたまって眼圧が上がる病気です。線維柱帯切除術は、この詰まった出口の脇に 新しい房水の通り道(バイパス)を作って 眼圧を下げる手術です。本来の排水路を広げる手術(線維柱帯切開術やMIGSの一部)とは原理が異なり、房水を結膜の下へ逃がして「濾過胞(ろかほう)」という水ぶくれを作る 点が最大の特徴です。

線維柱帯切除術のしくみ

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    白目(結膜)の下の強膜に、ふた状の「弁(フラップ)」を作る

    上まぶたで隠れる位置の白目を開き、その下の壁(強膜)に切り込みを入れて、開け閉めできる ふた状の弁 を作ります。

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    線維柱帯の一部を切り取り、房水の新しい出口を作る

    詰まった排水溝(線維柱帯)の付近に小さな孔を開け、眼の中の房水が 弁の下を通って結膜の下へ流れ出る新しい通り道 を作ります。本来の排水路を作り直すのではなく、別ルートを増設するイメージです。

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    流れ出た房水が「濾過胞(ろかほう・ブレブ)」にたまる

    弁の上の結膜の下に、房水がたまる 水ぶくれのようなふくらみ(濾過胞) ができ、そこから房水がゆっくり吸収されることで眼圧が下がります。眼圧が下がるかどうかは、この濾過胞がうまく働き続けるかにかかっています。

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    傷あとが固まりすぎないよう、薬(マイトマイシンC)を併用する

    結膜下の傷が治る過程で固まりすぎると、せっかくの濾過胞がつぶれて房水が流れなくなり、眼圧が再び上がってしまいます。これを防ぐため、手術中に マイトマイシンCという瘢痕(きずあと)を抑える薬 を短時間あてて十分に洗い流す方法が一般的です。「がんの薬」と同じ成分ですが、ここでは 傷あとを固まりにくくする目的 で少量を使います。

くり返しになりますが、この手術は 眼圧を下げて進行を止めるための手術 であって、見え方そのものを良くする手術ではありません。眼圧を大きく下げられる力が強いぶん、術後の管理が長く、合併症にも注意が必要な手術です。

適応:いつ手術を検討するか

緑内障手術のタイミングは、白内障のように「見えづらくなったら」ではありません。点眼やレーザーを尽くしても眼圧が下がりきらない・視野の進行が止まらない ときが検討の入り口です。判断軸は「症状」ではなく「眼圧と進行のコントロール状況」です。

手術が検討される状況の目安・セルフチェック

緑内障手術は、見え方の良し悪しではなく『点眼やレーザーを尽くしても眼圧が下がりきらない・視野の進行が止まらない』状況で検討します。次の項目は1つでも当てはまれば、それ単独で手術を検討する理由になりえます。数ではなく、進行度と目標とする眼圧から個別に判断します。

点眼薬を何種類かきちんと使っていても、目標とする眼圧まで下がっていないと言われていますか?

緑内障で唯一はっきり進行を抑えられると分かっているのは「眼圧を下げること」です。点眼を最大限使っても目標眼圧に届かない場合、線維柱帯切除術はより大きく眼圧を下げられる選択肢になります。

当てはまる項目があれば、数に関わらず主治医に手術の要否を相談してください。とくに『視野欠損が中等度〜進行』『若くして発症し生涯にわたり眼圧を低く保つ必要がある』などは、1項目でも単独で手術検討に直結します。要否は項目数ではなく、進行度と目標とする眼圧から一人ひとり個別に判断します。『まだ少ないから大丈夫』と自己判断で受診を遅らせないでください。

急な強い眼痛・頭痛・吐き気・急激な見えにくさは、緑内障の急性発作など緊急の状態のことがあります。すぐに眼科を受診してください。

これは簡易的なチェックであり、診断ではありません。気になる症状が続く場合は眼科で確認しましょう。

具体的には、次のような状況が手術検討の目安になります。判断には個人差があり、最終的には主治医とご相談ください。

状況判断の目安
点眼1〜2本で目標眼圧を維持でき、進行もない手術は不要。点眼を続けて定期検査
点眼を尽くしても眼圧が高く、視野進行が続く線維柱帯切除術を前向きに検討
軽〜中等度で、白内障手術も予定しているまずMIGSを検討(→ 後述の位置づけ)
過去に濾過手術がうまくいかなかった/難しい目チューブシャント手術を検討
閉塞隅角で急性発作のリスクが高いまずレーザーや白内障手術を優先

いずれも目安で、最終的な判断には個人差があります。手術の要否は主治医とよくご相談ください。

慎重に検討する場合

こうした場合も含め、適応は個別に慎重に判断します。不安な点は遠慮なく主治医にご相談ください。

手術の流れ

検査から手術当日、術後の通院までの一般的な流れです。通院回数やスケジュールは施設・目の状態で異なるため、あくまで目安としてご覧ください。白内障手術と最も違うのは、術後の「通い込み」が長いこと です。

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    術前検査・目標眼圧の決定

    目安:手術前に複数回

    視野・OCT・眼圧・隅角などで進行度を評価し、どこまで眼圧を下げるか(目標眼圧) を決めます。使用中の点眼や、血液をさらさらにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)の扱いも確認します。自己判断で薬を休まず、必ず処方医と眼科の指示に従ってください。

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    麻酔・消毒

    目安:手術当日

    点眼麻酔に加え、目のまわりに局所麻酔(テノン嚢下または球後麻酔)を行います。白内障手術より麻酔はしっかりめに効かせるため、手術中の強い痛みはほとんどありません。

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    結膜・強膜を開き、弁(フラップ)を作る

    所要:全体で約30〜60分

    上まぶたで隠れる位置の白目(結膜)を開き、強膜にふた状の弁を作ります。傷あとが固まりすぎて流れが止まらないよう、マイトマイシンCを短時間あてて十分に洗い流す ことが多いです。

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    房水の新しい出口を作り、濾過胞を形成する

    線維柱帯付近に小さな孔を開けて房水の新しい出口を作り、弁を あえて少しゆるめに数本の糸で縫い合わせます。結膜の下に房水がたまる 濾過胞(ブレブ) ができ、眼圧が下がります。

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    術後の眼圧調整(レーザー切糸・ニードリングなど)

    目安:術後しばらくは頻回に通院

    房水がどれくらい流れるかには大きな個人差があります。そこで術後、通院のたびに眼圧と濾過胞をチェック し、眼圧が高ければ レーザーで縫合糸を1本ずつ切って(切糸)流れを増やし、目標眼圧へ近づけます。濾過胞が癒着して流れが悪くなれば、針で癒着をはがす ニードリング や眼球マッサージで微調整します。下げすぎ(低眼圧)も避けながら、ちょうどよい流れに整えていきます。

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    長期の経過観察

    目安:その後も生涯にわたり定期受診

    濾過胞は年単位で変化するため、手術後も定期検査が欠かせません。 点眼を減らせる方もいますが、緑内障そのものが治ったわけではありません。後述の濾過胞感染は、手術から何年たっても起こりうるため、長く付き合っていく意識が大切です。

費用の目安

線維柱帯切除術は健康保険の対象で、診療報酬では「緑内障手術(濾過手術)」にあたります(令和6年度で手術手技料 23,600点)。以下はすべて 概算の目安 で、施設・所得区分・年度改定・併施処置・入院の有無で変わります。緑内障手術は高額療養費制度の対象 なので、実際の自己負担はこれよりさらに抑えられることが多いです。正確な額は受診先や加入する保険者にご確認ください。

費用の目安(片眼・自己負担割合別)

すべて概算の目安です。手術手技料をもとにした金額で、術前検査・薬剤・入院費は別途かかります。緑内障手術は高額療養費制度の対象で、実際の自己負担はさらに下がることが多いです。正確な額は受診先・保険者にご確認ください。

負担割合費用の目安(片眼)備考
1割負担 約2万円前後〜高額療養費・入院費の適用前
3割負担 約5〜6万円前後〜検査等を含む概算・高額療養費の適用前
入院した場合 上記+入院費数日〜1週間程度・差額ベッド代は別

もう少し詳しく見ていきましょう。いずれも目安であり、施設や状態によって異なります。

緑内障手術は 医療費控除の対象 にもなります。高額療養費の見直しが予定される時期もあるため、詳しい費用は受診先や保険者に確認すると安心です。

他の緑内障治療との位置づけ

緑内障の治療は、負担の軽い順に段階的に 進めます。点眼 → レーザー(SLT)MIGS ・手術、という流れの中で、線維柱帯切除術は 「点眼やレーザーで足りないときに選ぶ、最も確実に眼圧を下げる標準術式」 にあたります。よく混同されますが、MIGS と濾過手術は『どちらが新しい・優れている』ではなく、役割が違う 治療です。

緑内障治療の5つの選択肢|位置づけ早わかり

緑内障治療は『効果は弱いが負担の軽い順』に段階的に進めます。線維柱帯切除術は、眼圧を大きく下げたいときの標準術式です。効果や適応には個人差があり、最終的には主治医と相談して決めます。

比較の軸点眼薬レーザー(SLT)MIGS線維柱帯切除術チューブシャント
体への負担 最も軽い軽い(外来)軽い大きい大きい
眼圧を下げる力 弱〜中強い強い
主な位置づけ 第一選択点眼の補助・代替軽〜中等度へ(白内障同時または単独)点眼・レーザー無効例の標準濾過手術が難しい/再手術
通院・入院 通院のみ外来・日帰り多くは日帰り入院または頻回通院入院または頻回通院
主な対象 すべての病期開放隅角・高眼圧軽〜中等度(白内障同時または単独)中等度〜進行例難治例・血管新生緑内障など
保険 適用適用適用(多くの術式)適用適用

このうち、眼圧を大きく下げる本格的な手術は、線維柱帯切除術とチューブシャント手術の2つ。どちらも 房水を眼の外へ逃がす「濾過手術」 の仲間です。

眼圧を大きく下げる『濾過手術』の2タイプ

点眼やレーザーで足りないときの本格的な手術は、大きく2つに分かれます。どちらを選ぶかは、目の状態・過去の手術歴・緑内障のタイプによって決まります。最終的には主治医とよく相談しましょう。

線維柱帯切除術(トラベクレクトミー) 濾過手術の標準

結膜の下に房水の新しい流出路(濾過胞)を作り、眼圧を大きく下げる、最も標準的な緑内障手術です。

見分け方 点眼・レーザーで眼圧が下がりきらない、視野進行が続く中等度〜進行例が主な対象です。

対処 まず検討される第一の濾過手術。術後は濾過胞の管理(切糸・マッサージなど)が長く必要です。

チューブシャント手術(緑内障インプラント) 難治例・再手術

小さなチューブ(管)を眼の中に留置し、房水を眼の外のプレートへ逃がして眼圧を下げる手術です。

見分け方 線維柱帯切除術が難しい・過去にうまくいかなかった目、血管新生緑内障などの難治例が主な対象です。

対処 濾過手術が成立しにくいケースの選択肢。デバイスを使うぶん、適応や費用が異なります。

どちらの手術にするか、あるいはまだ点眼・レーザー・MIGSで様子を見るかは、緑内障のタイプ・進行度・目標眼圧から総合的に判断します。「自分はどれに当たるのか」は、主治医とよくご相談ください。緑内障全体の治療の流れは 緑内障の解説ページ もあわせてご覧ください。

手術後の生活

術後しばらくは、できたばかりの濾過胞を守ることが何より大切です。デスクワークなど目に負担の少ない仕事は比較的早く戻れる方が多い一方、重い物を持つ・強く前かがみになる動作はしばらく控え、洗顔・洗髪・入浴・運動の再開時期は主治医の指示に従ってください。回復や再開の時期には個人差があります。

術後しばらく守ること(セルフケア)

  • 処方された抗菌・抗炎症の点眼を、指示どおりの回数・期間きちんと続ける
  • 目をこすらない・押さえない(できたばかりの濾過胞を傷つけないよう特に注意)
  • うつ伏せ・強い前かがみ・重い物を持つ動作はしばらく控える
  • 洗顔・洗髪・入浴を再開してよい時期は、必ず主治医の指示に従う
  • 指示された通院(術後しばらくは頻回)を必ず守り、眼圧と濾過胞のチェックを受ける
  • プール・温泉・サウナなど感染リスクのある環境は、許可が出るまで避ける
  • 落ち着いたあとも、コンタクトレンズの可否は必ず主治医に確認する
  • 結膜炎・ものもらいなど目の感染症は放置せず、早めに眼科を受診する

すぐに眼科へ(術後の危険サイン)

  • 目の強い痛み・急に強くなる充血・目やにの増加(濾過胞感染のサイン)
  • 急に見えにくくなった・かすみが強くなった
  • 濾過胞のあたりが赤く濁ってきた
  • 頭痛や吐き気を伴う強い眼痛
  • これらは感染や眼圧の異常のサインのことがあり、手術から年数が経っていても一刻も早い受診が必要です

術後の危険サインは、早く気づいて受診することが何より大切です。「夜だから」「明日まで様子を見よう」と我慢せず、強い痛みや急な見えにくさを感じたら、すぐに手術を受けた医療機関に連絡してください。とくに濾過胞の感染は、手術から年月が経ってからでも起こりうる ことを忘れないでください。

リスク・合併症

線維柱帯切除術は眼圧を大きく下げられる一方、緑内障手術の中では合併症が起こりやすく、術後管理が難しい手術 です。合併症の起こりやすさはさまざまで、低眼圧・浅前房・白内障の進行は比較的起こりやすいものブレブ感染・眼内炎はまれですが最も重篤なもの です。多くは術後の頻回な通院で早めに気づき、対処できます。

リスク頻度の目安内容・対処
低眼圧(房水の流れすぎ)・低眼圧黄斑症比較的起こりやすい眼圧が下がりすぎると黄斑にしわやむくみが出て視力が落ちることがある。縫合の追加などで調整
脈絡膜剥離(みゃくらくまくはくり=目の壁の一部が一時的に浮く状態)ときに起こる眼圧低下に伴い起こることがあるが、多くは2〜3週ほどで自然に軽快
浅前房(せんぜんぼう=目の中の水のスペースが一時的に浅くなる状態)・前房出血ときに起こる房水のバランスが一時的に崩れて起こる。多くは数日で吸収・改善
白内障の出現・進行起こりやすい濾過手術後に進みやすく、のちに白内障手術が必要になることがある
濾過胞の瘢痕化(きずあとで固まる)・眼圧の再上昇比較的起こりやすい流出路が固まって効果が薄れる。切糸・ニードリング・再手術で対応することがある
濾過胞関連感染症(ブレブ感染)→眼内炎まれだが最も重篤術後何年たっても起こりうる(下記で詳述)
視力低下・視野のさらなる悪化まれ進行例では術後に視野が同じか、わずかに悪化することもある

とくに術後早期は 眼圧が下がりすぎる「低眼圧」 の管理が重要で、だからこそ頻回の通院で細かく調整します。また、効果が一生続くとは限らず、濾過胞が固まって眼圧が再び上がれば、ニードリングや追加の手術が必要になることもあります。「手術すれば終わり」ではなく、長く付き合う治療だとお考えください。

濾過胞関連感染症(ブレブ感染)に注意

濾過胞(ブレブ)は、薄い結膜の壁を介して房水がたまっている袋です。この壁を通して細菌が入り込むと、濾過胞の感染(ブレブ感染) を起こし、進行すると眼の中全体に広がる 眼内炎 となって、失明につながる危険があります。

ここで知っておいていただきたいのは、この感染は手術が終わっても消えない、生涯にわたるリスク だということです。濾過胞は一生残るため、手術から何年もたってから突然起こることがあります。 頻度そのものは決して高くありませんが、年月とともに少しずつ積み重なる(累積する)リスク で、ゼロにはなりません。とくに マイトマイシンCを併用した目や、濾過胞が下方にある場合などはリスクがやや高まる とされます。だからこそ、サインを覚えておくことが大切です。

次のサインが出たら、手術から何年たっていても、夜間でもすぐに眼科へ連絡してください。

「手術が無事に終わったから安心」ではなく、こうしたサインを生涯おぼえておくこと自体が、最大の予防 になります。過度に怖がる必要はありませんが、知っておくことが大切です。

落ち着いたあとの日常で、感染を防ぐためにできること

生涯リスクと聞くと「もう普通に生活できないのでは」と不安になるかもしれませんが、多くの方は、いくつかのことに気をつけながら、ふだんどおりの生活を送っています。 術後が落ち着いたあとも、次のことを習慣にしておくと安心です。

よくある質問

Q 線維柱帯切除術を受ければ、緑内障は治りますか?狭くなった視野は戻りますか?
いいえ。この手術は眼圧を下げて進行を食い止めるための手術で、すでに失われた視野や視力が戻ることはありません。緑内障で傷んだ視神経は元に戻らないためです。手術後も視野は手術前と同じか、わずかに悪化することもあります。それでも、進行を強く抑える意義は非常に大きい手術です。
Q 手術は痛いですか?入院は必要ですか?
点眼麻酔に局所麻酔を加えて行うため、手術中の強い痛みはほとんどありません。所要時間は片眼でおよそ30〜60分です。術後の管理がデリケートなため、施設によって数日から1週間程度の入院をすすめる場合と、日帰りで頻回に通院してもらう場合があります。どちらになるかは施設の方針や目の状態によります。
Q 手術中は意識がありますか?何が見えて、どうしていればよいですか?
局所麻酔のため意識はありますが、麻酔がしっかり効いているので強い痛みはほとんどありません。手術中はまぶしい光やぼんやりした影は見えますが、手術の様子がはっきり見えるわけではありません。基本は楽な姿勢であお向けになり、術者の「上を見てください」などの指示にゆっくり従うだけで大丈夫です。急に動いたり強く目をつぶったりしないことだけ気をつければ、あとは医師が進めます。怖さや痛みを感じたら、がまんせず手術中でも遠慮なく伝えてください。
Q 両眼とも手術が必要な場合、同時にできますか?
通常は、両眼を同時には行わず、片眼ずつ間隔を空けて手術します。これは、術後にできた濾過胞の状態を見ながら眼圧を細かく調整する必要があり、万一の感染などのリスクを両眼同時に負わないようにするためです。片方が落ち着いてからもう片方を検討するのが一般的ですが、間隔や順番(どちらの目を先にするか)は進行度などをふまえて主治医が判断します。
Q 手術後、車の運転や仕事・家事にはどのくらいで戻れますか?
個人差が大きく、目の状態と主治医の指示が前提になりますが、デスクワークなど目に負担の少ない仕事や軽い家事は比較的早く戻れる方が多いです。一方で、重い物を持つ・強く前かがみになる作業や、激しい運動はしばらく控えます。車の運転は見え方や眼圧が落ち着いてからで、再開してよい時期は必ず主治医に確認してください。「いつから何をしてよいか」を受診時に具体的に聞いておくと安心です。
Q 手術をしないと、いずれ失明してしまうのでしょうか?
必ず失明するわけではありません。緑内障は適切に眼圧をコントロールできれば、多くの方が生涯にわたり不自由なく過ごせます。ただし、点眼やレーザーで眼圧が下がりきらず進行が続く場合は、放置すると視野障害が進んでしまうため、進行を止める手段として手術が検討されます。判断は進行度によって異なるので、主治医とよくご相談ください。
Q 点眼やレーザーを続けるのと、手術を受けるのはどちらがよいですか?
進行度と眼圧の下がり具合によります。点眼やレーザー、MIGSで目標の眼圧まで下がり進行が止まっていれば、手術は必要ありません。これらを尽くしても眼圧が高く視野進行が続く場合に、より確実に眼圧を下げられる線維柱帯切除術が検討されます。どの段階で踏み切るかは主治医と相談して決めましょう。
Q MIGS(低侵襲緑内障手術)とは何が違うのですか?どちらを選びますか?
病状の重さで使い分けます。MIGSは体への負担が小さく、軽度から中等度の方に向きますが、眼圧を下げる力は中等度です。多くは白内障手術と同時に行われますが、一部のデバイス(iStent inject Wなど)は単独での手術も承認されています。線維柱帯切除術は負担が大きい一方で眼圧を大きく下げられるため、進行した方や、より低い眼圧を目指したい方に選ばれます。どちらが優れているということではなく、適応が違う治療です。
Q チューブシャント手術とはどう違いますか?
どちらも房水を眼の外へ逃がす濾過手術です。線維柱帯切除術は結膜の下に濾過胞を作る標準的な方法、チューブシャント手術は小さな管を留置する方法です。線維柱帯切除術が難しい目や過去にうまくいかなかった目、難治性の緑内障では、チューブシャント手術が選ばれることがあります。
Q 手術の費用はいくらくらいですか?保険は使えますか?
健康保険の対象です。3割負担の場合、検査などを含めて片眼でおおむね数万円から10万円程度が目安ですが、施設や入院の有無で変わります。緑内障手術は高額療養費制度の対象なので、1か月の自己負担が所得区分ごとの上限を超えた分は払い戻され、実際の負担はさらに軽くなることが多いです。正確な額は受診先や保険者にご確認ください。
Q 手術をすれば、目薬(点眼)はやめられますか?
眼圧が十分に下がれば点眼を減らせる方、やめられる方もいますが、個人差があります。術後も眼圧が足りなければ点眼を追加することもあります。いずれにせよ緑内障そのものが治ったわけではないため、定期検査は生涯欠かせません。点眼の調整は必ず主治医の指示に従ってください。
Q 術後の通院はどのくらい必要ですか?
術後しばらくは、濾過胞の状態と眼圧を見るために頻回(週単位)の通院が必要で、その間にレーザー切糸や眼球マッサージで眼圧を細かく調整します。落ち着いた後も、濾過胞は年単位で変化するため、定期的な受診を続けていきます。白内障手術に比べて、術後の通い込みが長いのが特徴です。
Q 手術がうまくいかず、眼圧がまた上がることはありますか?
あります。濾過胞が固まって流れが悪くなると眼圧が再び上がることがあり、その場合はニードリングや追加の手術で対応します。術後の頻回な通院で早めに気づいて調整することが、効果を長持ちさせる鍵になります。効果がずっと続くとは限らない点も知っておくと安心です。
Q 濾過胞(ろかほう)の感染が怖いと聞きました。一生気をつけないといけないのですか?
濾過胞は一生残るため、感染のリスクも生涯続きます。頻度は高くありませんが、手術から何年たってからでも起こりうるため、急な強い充血・目の痛み・目やにの増加・急なかすみが出たら、すぐに眼科を受診してください。過度に怖がる必要はありませんが、これらのサインを覚えておくこと自体が予防になります。

受診のときに、主治医に聞いておくとよいこと

「そろそろ手術を」と言われたものの踏み切れない方は、次の質問をメモして受診すると、判断の材料がそろいます。

手術の方針に迷ったときは、別の医療機関で意見を聞くセカンドオピニオン という選択肢もあります。納得して受けることが、その後の長い通院を続けていくうえでも大切です。


線維柱帯切除術は、点眼やレーザーで眼圧が下がりきらない緑内障に対して、最も確実に眼圧を下げられる標準的な手術 です。技術は広く確立されていますが、合併症が起こりやすく、術後の管理が長く続く手術でもあります。

くり返しになりますが、この手術は 視野を回復させるものではなく、これ以上の進行に強くブレーキをかける ための手術です。それでも、進行を食い止める意義は非常に大きく、適切なタイミングで受ければ、多くの方が生涯にわたり見え方を保っていけます。「手術が怖い」「踏み切れない」という気持ちは自然なものです。不安や疑問は、遠慮なく主治医にぶつけてみてください。

緑内障そのものの全体像は 緑内障の解説ページ、より負担の軽い治療は 緑内障のレーザー治療(SLT)MIGS(低侵襲緑内障手術) もあわせてご覧ください。気になる症状や不安があれば、まず一度かかりつけの眼科にご相談ください。