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線維柱帯切開術(緑内障手術)|線維柱帯切除術との違い・費用・流れを眼科医が解説

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目次
  1. 線維柱帯切開術とは
  2. 適応:いつ手術を検討するか
  3. 手術の流れ
  4. 費用の目安
  5. 線維柱帯切除術との違い・緑内障治療での位置づけ
  6. 他の緑内障治療での位置づけ
  7. 手術後の生活
  8. リスク・合併症
  9. よくある質問
  10. 受診のときに、主治医に聞いておくとよいこと

「点眼を続けてきたのに眼圧が下がりきらない」「白内障の手術のとき、一緒に眼圧も下げましょうと言われた」「切る手術は怖い」――線維柱帯切開術(トラベクロトミー)は、緑内障の手術の中でも体への負担が比較的軽い方法ですが、いざ自分が受けるとなると不安は当然です。

最初に、最も大切なことをお伝えします。この手術は、狭くなった視野や落ちた視力を回復させる手術ではありません。 緑内障で一度傷んだ視神経は元に戻らず、失われた視野が戻ることはありません。目的は、眼圧を下げて、これ以上の進行に強くブレーキをかける こと。「治す」ではなく「進行を止める・遅らせる」ための手術です。それでも、進行を食い止める意義は大きい手術です。

名前のよく似た線維柱帯切除術(濾過手術)が「別ルートを増設する」のに対し、線維柱帯切開術は「本来の排水路を切り開いて流れを取り戻す」再建型の手術 です。原理がちょうど逆だと考えるとわかりやすいかもしれません。

緑内障は40歳以上の約20人に1人がもつ身近な病気で、適切に眼圧をコントロールできれば、生涯にわたり不自由なく過ごせる方が大半です。手術はそのための有力な手段の一つです。緑内障そのものは 緑内障の解説ページ、より負担の軽い治療や似た手術は 線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)緑内障のレーザー治療(SLT)MIGS(低侵襲緑内障手術) もあわせてご覧ください。

線維柱帯切開術とは

緑内障は、目の中を満たす水(房水)の出口=線維柱帯 という排水溝が目詰まりし、房水がたまって眼圧が上がる病気です。この線維柱帯は、隅角(ぐうかく:房水の出口がある、黒目と虹彩の根もとの角の部分) にあります。線維柱帯切開術は、この 詰まった出口そのものを切り開いて、本来の排水路の通りを回復させる「流出路再建術」 です。結膜の下に新しいルートと濾過胞を作る線維柱帯切除術とは原理がちょうど逆で、濾過胞(水ぶくれ)を作らない ことが最大の違いです。なお本術式は本来の排水路(線維柱帯〜シュレム管)を使うため、原則として隅角が開いている開放隅角の緑内障が対象 です。隅角が癒着・閉塞しているタイプは適応が異なります。

線維柱帯切開術のしくみ

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    房水の本来の排水路「シュレム管」に器具を通す

    線維柱帯のすぐ外側には、房水を集めて運ぶ シュレム管(排水の本管) が通っています。ここに細いフックや専用の器具を入れます。詰まりの主な場所は、線維柱帯という"こし器"の部分です。

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    目詰まりした線維柱帯を内側から切り開く(切開)

    目詰まりした 線維柱帯を切り開いて、房水がシュレム管へ流れやすくします。濾過手術のように"別の出口"を作るのではなく、もともとある出口の通りを良くする のが最大の違いです。「トラベクトミー(切開)」と「トラベククトミー(切除)」は名前が似ていますが、別の手術です。

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    結膜の下に「濾過胞」は作らない

    房水を結膜の下へ逃がさないため、濾過胞(水ぶくれ)ができません。そのぶん、濾過胞の感染という生涯にわたるリスクがなく、術後の管理も濾過手術より短くて済むのが利点です。

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    術後しばらくは少量の出血が出やすい

    切り開いた線維柱帯の付近から 一時的に少量の血が前房に戻ること(前房出血) があり、数日〜1〜2週間ほど見え方がかすむことがあります。多くは自然に吸収されます(くわしくは後述します)。

くり返しになりますが、これは 眼圧を下げて進行を止める手術 であって、見え方そのものを良くする手術ではありません。眼圧を下げる力は中等度で穏やかなぶん、合併症が軽く、目への負担が小さいのが特徴です。効果や経過には個人差があります。

適応:いつ手術を検討するか

緑内障手術のタイミングは、白内障のように「見えづらくなったら」ではありません。点眼やレーザーで眼圧が下がりきらない・進行が止まらない、けれど線維柱帯切除術ほど大きく下げる必要はない軽〜中等度 が、線維柱帯切開術を考える入り口です。とくに ステロイド緑内障・落屑(らくせつ)緑内障など「線維柱帯の流れが悪いタイプ」では、良い適応 になりやすいとされます。なお、線維柱帯の構造異常が主体となるお子さんの先天/発達緑内障も本術式が代表的な適応ですが、乳幼児の全身麻酔下手術となり、治療の目標や経過も成人例とは大きく異なるため、本ページが想定する「点眼を続けてきた中高年の方」とは別に、小児眼科の専門医にご相談ください。

手術が検討される状況の目安・セルフチェック

線維柱帯切開術は、見え方の良し悪しではなく『点眼で眼圧が下がりきらない・進行が止まらない、けれど濾過手術ほど大きく下げる必要はない』軽〜中等度の段階で検討します。次の項目に当てはまるほど、検討の時期に近づいています。要否は数ではなく、進行度と目標とする眼圧から一人ひとり個別に判断します。

点眼を使っていても目標の眼圧まで下がりきらず、でも視野の障害はまだ軽い〜中等度と言われていますか?

線維柱帯切開術は、本来の排水路を切り開いて眼圧を中等度に下げる手術です。大きく眼圧を下げる必要がある進行例では濾過手術(切除術)が、まだ軽〜中等度で白内障手術も予定しているなら本術式やMIGSが候補になります。どれが向くかは進行度と目標眼圧で決まります。

当てはまる項目があれば、数に関わらず主治医に手術の要否を相談してください。線維柱帯切開術が向くか、より負担の軽いSLT・MIGSか、より大きく眼圧を下げる切除術かは、進行度・目標とする眼圧・白内障の有無から一人ひとり個別に判断します。『まだ軽いから』と自己判断で受診を遅らせないでください。

急な強い眼痛・頭痛・吐き気・急激な見えにくさは、緑内障の急性発作など緊急の状態のことがあります。すぐに眼科を受診してください。

これは簡易的なチェックであり、診断ではありません。気になる症状が続く場合は眼科で確認しましょう。

具体的には、次のような状況が手術検討の目安になります。判断には個人差があり、最終的には主治医とご相談ください。

状況判断の目安
点眼1〜2本で目標眼圧を維持でき、進行もない手術は不要。点眼を続けて定期観察
軽〜中等度で、白内障手術も予定している白内障と同時の流出路再建(本術式・MIGS)を検討
点眼を尽くしても眼圧が下がらず、視野進行が続く・進行例より大きく下げる線維柱帯切除術を検討
ステロイド緑内障・落屑緑内障など流出路の異常が主体(成人)線維柱帯切開術が良い適応になりやすい
過去の手術などで結膜に強い瘢痕がある濾過胞を作らない本術式が選択肢になることがある

いずれも目安で、最終的な判断には個人差があります。手術の要否は主治医とよくご相談ください。

慎重に検討する場合

こうした場合も含め、適応は個別に慎重に判断します。不安な点は遠慮なく主治医にご相談ください。

手術の流れ

検査から手術当日、術後の通院までの一般的な流れです。通院回数やスケジュールは施設・目の状態で異なるため、あくまで目安としてご覧ください。線維柱帯切開術には、目の中から行う眼内法(ab interno=エイビーインターノ)と、結膜を開いて外から行う眼外法(ab externo) があり、角膜の小切開から隅角を見ながら切り開く眼内法は低侵襲で、白内障手術と同時に行いやすい のが特徴です。

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    術前検査・目標眼圧の決定

    目安:手術前に複数回

    視野・OCT・眼圧に加え、隅角(線維柱帯)が手術に適した状態か を確認し、目標眼圧を決めます。使用中の点眼や、血液をさらさらにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)の扱いも確認します。自己判断で薬を休まず、必ず処方医と眼科の指示に従ってください。

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    麻酔・消毒

    目安:手術当日

    点眼麻酔に局所麻酔(テノン嚢下麻酔など)を加えて行うため、手術中の強い痛みはほとんどありません。

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    シュレム管に器具を通し、線維柱帯を切り開く

    所要:片眼およそ20〜40分

    目の中から行う 眼内法(マイクロフック法・GATTなど) と、結膜を開いて外から行う 眼外法 があります。いずれも本来の排水路の通りを良くする方法で、濾過胞は作りません。 角膜の小さな切開から行う眼内法は、白内障手術と同時に行うこともよくあります。

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    術後早期の経過(前房出血・一過性の眼圧上昇)

    目安:術後しばらく通院

    切り開いた部分から 一時的に少量の出血(前房出血) が出ることが多く、数日〜1〜2週間ほど見え方がかすむことがあります。多くは自然に吸収されます。出血が吸収される過程などで 術後に一時的に眼圧が上がる こともあり、点眼などで調整します。

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    長期の経過観察

    目安:その後も定期受診

    濾過胞がないため、切除術ほど頻回・長期の細かな調整は要しません。ただし 緑内障そのものが治ったわけではありません。 点眼を減らせる方もいますが、定期検査は生涯にわたって続けます。

費用の目安

線維柱帯切開術は健康保険の対象で、診療報酬では「緑内障手術(流出路再建術)」にあたります。眼の中から行う眼内法と、従来の外切開法とで点数の区分が分かれ、概して濾過手術(線維柱帯切除術)より費用は抑えめになりやすい とされます。以下はすべて 概算の目安 で、施設・所得区分・年度改定・入院の有無で変わります。緑内障手術は高額療養費制度の対象 なので、実際の自己負担はこれよりさらに抑えられることが多いです。正確な額は受診先や加入する保険者にご確認ください。

費用の目安(片眼・自己負担割合別)

すべて概算の目安です。手術料をもとにした金額で、術前検査・薬剤・(入院した場合の)入院費は別途かかります。緑内障手術は高額療養費制度の対象で、実際の自己負担はさらに下がることが多いです。白内障手術と同時に行う場合は費用が変わります。正確な額は受診先・保険者にご確認ください。

負担割合費用の目安(片眼)備考
1割負担 約1.5〜2万円前後手術料ベース・高額療養費・入院費の適用前
3割負担 約5〜8万円前後検査・麻酔を含む概算・高額療養費の適用前
白内障と同時に行う場合 白内障手術費に手術料が加算同日に2つの手術を行うため変わる

もう少し詳しく見ていきましょう。いずれも目安であり、施設や状態によって異なります。

緑内障手術は 医療費控除の対象 にもなります。詳しい費用は受診先や保険者に確認すると安心です。

線維柱帯切除術との違い・緑内障治療での位置づけ

線維柱帯切「開」術と線維柱帯切「除」術は、名前は一字違いですが、原理が根本的に逆の別の手術 です。切開術=本来の排水路を切り開いて再建する(濾過胞なし・穏やか・安全・管理が短い)/切除術=結膜の下に新しい出口を増設して濾過する(濾過胞あり・強力・管理が長い)。どちらが優れているということではなく、進行度と目標とする眼圧で 使い分け ます。

線維柱帯切開術と線維柱帯切除術、どう違う?

名前は似ていますが、原理が根本的に異なる別の手術です。『本来の排水路を再建する切開術』と『新しい出口を増設する濾過の切除術』。どちらが優れているということではなく、進行度と目標とする眼圧で使い分けます。

比較の軸線維柱帯切開術(トラベクロトミー)線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)
手術の原理 本来の排水路(線維柱帯)を切り開いて流れを再建結膜下に新しい流出路(濾過胞)を増設して濾過
濾過胞(ブレブ) 作らない作る
眼圧を下げる力 中等度(穏やか)強い
主な対象 軽〜中等度・白内障同時・流出路異常型中等度〜進行例・より低い眼圧が必要
術後の管理 比較的短い(主に前房出血の吸収を確認)長い(切糸・ニードリングなど頻回)
特徴的な合併症 一過性の前房出血(多い)低眼圧・濾過胞感染(生涯リスク)
濾過胞感染の生涯リスク なしあり(年単位で累積)

名前の似た2つの緑内障手術

「切開術」と「切除術」は一字違いですが、めざすところも術後も大きく異なります。自分がどちらに当たるかは、進行度と目標とする眼圧で決まります。最終的には主治医とよく相談しましょう。

線維柱帯切開術(トラベクロトミー) 流出路再建

詰まった本来の排水路を切り開いて流れを取り戻す手術。濾過胞を作らないぶん合併症が軽く、術後の管理も短めです。

見分け方 軽〜中等度で、白内障手術と同時に行うことも多い段階。眼圧は中等度に下がります。

対処 濾過胞の感染リスクを避けたい方、まだ進行が軽い方に向きます。一過性の前房出血が出やすい点は知っておきましょう。

線維柱帯切除術(トラベクレクトミー) 濾過手術の標準

結膜の下に新しい流出路(濾過胞)を作り、眼圧を大きく下げる、最も標準的な濾過手術です。

見分け方 点眼・レーザーで下がりきらない中等度〜進行例、より低い眼圧が必要な方が主な対象です。

対処 効果は強い一方、術後の管理が長く、濾過胞の感染という生涯リスクがあります。

自分がどちらに当たるかは主治医とよくご相談ください。くわしくは 線維柱帯切除術の解説ページ もあわせてご覧ください。

他の緑内障治療での位置づけ

緑内障の治療は、負担の軽い順に段階的に 進めます。点眼 → レーザー(SLT)MIGS ・手術、という流れの中で、線維柱帯切開術は 「点眼やレーザーで足りない軽〜中等度に、切除術より負担を抑えて眼圧を下げる、流出路再建の選択肢」 にあたります。

緑内障治療の選択肢|線維柱帯切開術の位置づけ

緑内障治療は『効果は弱いが負担の軽い順』に段階的に進めます。線維柱帯切開術(流出路再建)は、点眼・レーザーで足りない軽〜中等度の段階で、濾過手術より負担を抑えて眼圧を下げる選択肢です。効果や適応には個人差があり、最終的には主治医と相談して決めます。※MIGSは幅広い概念で、ここでの『濾過胞なし』はマイクロフックなど流出路再建型を指します。XEN・PRESERFLOのように濾過胞を作る濾過型MIGSもあります。

比較の軸点眼薬レーザー(SLT)MIGS線維柱帯切開術線維柱帯切除術
体への負担 最も軽い軽い(外来)軽いやや軽い大きい
眼圧を下げる力 弱〜中中(穏やか)強い
濾過胞 なしなしなし(流出路再建型)※なしあり
主な位置づけ 第一選択点眼の補助・代替流出を改善(白内障同時が主)本来の排水路を再建(白内障同時/単独)点眼・レーザー無効例の標準
主な対象 すべての病期開放隅角・高眼圧軽〜中等度開放隅角・軽〜中等度・流出路異常型中等度〜進行例
保険 適用適用適用(多くの術式)適用適用

ここで知っておいていただきたいのは、流出路再建型のMIGS――マイクロフックによる切開・KDB(カフークデュアルブレード)・トラベクトーム・GATTなど――は、この線維柱帯切開術を、角膜の小さな切開から低侵襲に行う”眼内法(ab interno)“のことだ という点です。つまり本術式とこれらのMIGSは「流出路再建」という同じ仲間で連続し、いずれも濾過胞を作りません(iStentは線維柱帯を切るのではなく、小さなステントを置いて流れを助ける方法で、同じ流出路再建系の別タイプです)。ただしMIGSはもっと広い概念で、XEN・PRESERFLOのように結膜下に濾過胞を作る濾過型MIGSもあります。「MIGSなら濾過胞感染の心配がない」と一般化はできない点にご注意ください。どれが向くかは目の状態によって異なるため、くわしくは MIGS(低侵襲緑内障手術)緑内障のレーザー治療(SLT)緑内障の解説ページ もあわせてご覧ください。

手術後の生活

線維柱帯切除術が「できたばかりの濾過胞を守ること」を最優先にするのに対し、線維柱帯切開術では 術後しばらく、前房出血を長引かせないこと・眼圧の変化を確認すること が中心になります。デスクワークなど目に負担の少ない仕事は比較的早く戻れる方が多い一方、強い前かがみや重い物を持つ動作はしばらく控え、洗顔・洗髪・入浴・運動・運転の再開時期は主治医の指示に従ってください。回復や再開の時期には個人差があります。

術後しばらく守ること(セルフケア)

  • 処方された抗菌・抗炎症の点眼を、指示どおりの回数・期間きちんと続ける
  • 目をこすらない・押さえない(切り開いた部分を傷つけないよう特に注意)
  • 術後しばらくは強く前かがみになる・重い物を持つ動作を控える(前房出血を長引かせないため)
  • 洗顔・洗髪・入浴・運動を再開してよい時期は、必ず主治医の指示に従う
  • 前房出血で見えにくい間は運転を控える(多くは数日〜1〜2週間で改善)
  • 指示された通院を必ず守り、眼圧と前房(出血)の状態のチェックを受ける
  • プール・温泉・サウナの可否は、許可が出るまで自己判断しない

すぐに眼科へ(術後の危険サイン)

  • 目の強い痛み・急に強くなる充血・目やにの増加
  • 急に見えにくくなった・かすみが急に強くなった(出血が増えている可能性)
  • 頭痛や吐き気を伴う強い眼痛(眼圧上昇のサインのことがある)
  • 光がチカチカする・視野に新しい影やカーテンが出た
  • これらは出血の増加・眼圧の異常・感染などのサインのことがあり、早めの受診が必要です

術後の危険サインは、早く気づいて受診することが何より大切です。夜間でも、強い痛みや急な見えにくさを感じたら我慢せず、手術を受けた医療機関に連絡してください。

リスク・合併症

線維柱帯切開術は穏やかで安全性の高い手術ですが、合併症がゼロというわけではありません。最も多いのは一過性の前房出血 で、軽微なものを含めればほとんどの方にみられますが、多くは自然に吸収されます。一過性の眼圧上昇は術後1週間以内に起こりうるなど、起こりやすさはさまざまです。多くは術後の通院で早めに気づき、対処できます。

リスク頻度の目安内容・対処
一過性の前房出血最も多い(ほぼ必発)切り開いた線維柱帯付近からの逆流出血。数日〜1〜2週間で自然に吸収。安静で改善することが多い。ごくまれに量が多い・吸収が遅れる場合は前房洗浄などの処置で対応する
一過性の眼圧上昇比較的起こりやすい出血の吸収過程などで術後1週間以内(翌日が多い)に起こりうる。点眼などで対処し数日で軽快
眼圧降下が不十分ときに起こる流出路の再建で十分下がらず、追加の点眼や濾過手術が必要になることがある
効果の減弱・眼圧の再上昇ときに起こる切り開いた部分が再び癒着して効果が薄れることがある
白内障の進行ときに起こる同時手術でなければ、のちに白内障手術が必要になることがある
隅角の癒着などまれ状態により追加の処置を行うことがある
眼内炎(感染)極めてまれだが重大濾過胞がないぶん切除術より起こりにくいが、ゼロではない
脈絡膜出血など重い出血・過度の低眼圧極めてまれだが重大高度近視・高齢・血液をさらさらにする薬の使用などで出血のリスクがやや高まる。過度に眼圧が下がる一過性の低眼圧が起こることもある

前房出血は多くが一過性です

前房出血は本術式で最も多い合併症ですが、多くは数日〜1〜2週間ほどで自然に吸収され、見え方も戻ります。 永続的な視力障害につながるものではありません。出血で見えにくい間は不安に感じるかもしれませんが、過度に心配する必要はありません。ごくまれに吸収が遅れる・量が多い場合でも、前房洗浄などの処置で対応でき、永続的な視力障害につながることはまれです。 ただし、出血が急に増えて強くかすむ・痛みを伴うといった場合は、念のため早めに受診してください。そして、濾過胞を作らないため、切除術のような生涯続く濾過胞感染のリスクがない ことは、この手術の大きな安心材料です。効果や経過には個人差があります。

よくある質問

Q 線維柱帯切開術を受ければ、緑内障は治りますか?狭くなった視野は戻りますか?
いいえ。この手術は眼圧を下げて進行を抑えるための手術で、すでに失われた視野や視力が戻ることはありません。緑内障で傷んだ視神経は元に戻らないためです。それでも、眼圧を下げて進行に強くブレーキをかける意義は大きい手術です。効果や経過には個人差があります。
Q 「切除術(トラベクレクトミー)」と「切開術(トラベクロトミー)」は何が違うのですか?
名前は似ていますが、原理が逆の別の手術です。切開術は、詰まった本来の排水路(線維柱帯)を切り開いて流れを取り戻す「流出路再建」で、濾過胞(水ぶくれ)を作りません。眼圧を下げる力は中等度ですが、合併症が軽く管理も短めです。切除術は、結膜の下に新しい出口(濾過胞)を作って眼圧を大きく下げる「濾過手術」で、効果は強い一方、術後の管理が長く、濾過胞の感染という生涯リスクがあります。どちらが向くかは進行度と目標とする眼圧で決まります。
Q 私の緑内障には、切開術と切除術のどちらが向いていますか?
進行度と、どこまで眼圧を下げたいか(目標眼圧)で決まります。一般に、まだ軽〜中等度で白内障手術も予定しているなら、負担の軽い切開術やMIGSが候補になります。点眼やレーザーを尽くしても下がらず進行が続く、より低い眼圧が必要、という場合は、より大きく下げられる切除術が検討されます。どちらが優れているということではなく、使い分けです。最終的には主治医とよくご相談ください。
Q 線維柱帯切開術は「MIGS(低侵襲手術)」と同じものですか?iStentとは違うのですか?
目の中から小さな切開で行う線維柱帯切開術(マイクロフック法など)は、MIGSの一種に含まれます。MIGSと切開術は対立するものではなく、流出路を再建する同じ仲間で連続しています。iStentは線維柱帯を切るのではなく、小さなステント(管)を置いて房水の流れを助ける方法で、同じ流出路再建系の別タイプです。いずれも眼圧を下げる力は中等度で、白内障手術と同時に行いやすい点が共通します。
Q 手術は痛いですか?入院は必要ですか?
点眼麻酔に局所麻酔を加えて行うため、手術中の強い痛みはほとんどありません。所要時間は片眼でおよそ20〜40分です。多くの施設で日帰り対応ですが、目の状態や施設の方針によって数日の入院となることもあります。
Q 手術後、しばらく見えにくくなると聞きました。なぜですか?危険ですか?
切り開いた線維柱帯の付近から、一時的に少量の血が前房に戻る「前房出血」が起こりやすいためです。本術式で最も多い変化で、軽いものを含めればほとんどの方に見られますが、多くは数日から1〜2週間ほどで自然に吸収され、見え方も戻ります。ただし、出血が急に増えて強くかすむ・痛みを伴うといった場合は、念のため早めに受診してください。経過には個人差があります。
Q 白内障の手術と一緒に受けられますか?
はい。とくに目の中から行う眼内法は、白内障手術と同じ創口から同時に行うことがよくあります。白内障も緑内障も気になる方には、一度の手術で両方に対応できる利点があります。同時手術が向くかどうかは、目の状態をふまえて主治医が判断します。
Q 手術で眼圧はどのくらい下がりますか?点眼はやめられますか?
眼圧を下げる力は中等度で、濾過手術(切除術)よりは穏やかです。点眼を減らせる方もいますが、効果には個人差があり、術後も眼圧が足りなければ点眼を続けることがあります。いずれにせよ緑内障そのものが治ったわけではないため、定期検査は生涯欠かせません。点眼の調整は必ず主治医の指示に従ってください。
Q 仕事や運転にはいつから戻れますか?
デスクワークなど目に負担の少ない仕事は比較的早く戻れる方が多い手術です。運転は、前房出血で見えにくい間(多くは数日〜1〜2週間)は控えてください。一方で、強い前かがみや重い物を持つ動作は前房出血を長引かせないようしばらく控えます。線維柱帯切除術にくらべると術後の回復は早めですが、再開してよい正確な時期は目の状態によって異なるため、必ず主治医の指示に従ってください。
Q 効果はずっと続きますか?また眼圧が上がることはありますか?
切り開いた部分が再び癒着すると、効果が薄れて眼圧が再び上がることがあります。その場合は、追加の点眼や、必要に応じて濾過手術などが検討されます。術後の定期受診で眼圧の変化に早く気づくことが大切です。
Q 濾過胞(ろかほう)の感染が心配だと聞きました。この手術でも起こりますか?
線維柱帯切開術は濾過胞そのものを作らないため、切除術で問題になる「濾過胞の感染」という生涯にわたるリスクはありません。これは本術式の大きな安心材料の一つです。ただし、どんな眼の手術でも感染がまったくのゼロというわけではないため、術後に強い痛み・充血・急なかすみが出たら早めに受診してください。
Q 費用はいくらくらいですか?保険は使えますか?高額療養費は対象ですか?
健康保険の対象です。3割負担の場合、検査などを含めて片眼でおおむね5〜8万円程度が一つの目安ですが、術式・入院の有無・施設によって変わります。緑内障手術は高額療養費制度の対象なので、1か月の自己負担が所得区分ごとの上限を超えた分は払い戻され、実際の負担はさらに軽くなることが多いです。正確な額は受診先や保険者にご確認ください。

受診のときに、主治医に聞いておくとよいこと

「眼圧を下げる手術を」と言われたものの踏み切れない方は、次の質問をメモして受診すると、判断の材料がそろいます。

手術の方針に迷ったときは、別の医療機関で意見を聞くセカンドオピニオン という選択肢もあります。納得して受けることが、その後の通院を続けていくうえでも大切です。


線維柱帯切開術は、詰まった本来の排水路を切り開いて流れを取り戻す、濾過胞を作らない流出路再建型の手術 です。合併症が軽く術後の管理も短い一方、眼圧を下げる力は中等度=軽〜中等度の緑内障に向く 手術です。

くり返しになりますが、この手術は 視野を回復させるものではなく、これ以上の進行に強くブレーキをかける ためのものです。それでも、進行を食い止める意義は大きく、適切なタイミングで受ければ、多くの方が見え方を保っていけます。「切る手術が怖い」「踏み切れない」という気持ちは自然なものです。不安や疑問は、遠慮なく主治医にぶつけてみてください。

緑内障そのものの全体像は 緑内障の解説ページ、似た手術やより負担の軽い治療は 線維柱帯切除術(トラベクレクトミー)緑内障のレーザー治療(SLT)MIGS(低侵襲緑内障手術) もあわせてご覧ください。気になる症状や不安があれば、まず一度かかりつけの眼科にご相談ください。