「糖尿病で網膜のレーザー治療を勧められた」「健診で網膜に穴が見つかってレーザーを受けることになった」――こうした方が受ける治療が 網膜光凝固(もうまくひかりぎょうこ) です。
網膜光凝固は、レーザーを網膜の特定の部分に当てて凝固させる治療で、糖尿病網膜症の進行抑制、網膜裂孔からの網膜剥離予防、加齢黄斑変性などに広く使われてきました。外来で短時間に行え、痛みも比較的少ない 治療です。
ただし、目的は「進行を止める」ことで、すでに失われた視力を取り戻すものではありません。「早く受けるほど効果的」という性格の治療です。
このページでは、患者さんからよくいただく「痛い?」「視力は戻る?」「何回受けるの?」「費用は?」といったご質問にお答えする形で、網膜光凝固について整理してご説明します。
網膜光凝固とは
網膜は、眼の奥にある像を映すフィルムのような組織です。網膜のどこかに病変があると、その部分の網膜を意図的に レーザーで焼き固める ことで、進行を止めたり、合併症を防いだりします。
主な目的は3つあります。
- 新生血管の発生を抑える(糖尿病網膜症など)
- 網膜の穴(裂孔)を取り囲み、網膜剥離を防ぐ(網膜裂孔)
- 特定の異常血管・出血源を直接焼き固める(網膜静脈閉塞症など)
主な適応疾患は次のとおりです。
| 適応疾患 | 治療目的 |
|---|---|
| 糖尿病網膜症(増殖前〜増殖期) | 新生血管発生の抑制、進行抑制 |
| 糖尿病黄斑浮腫(限局型) | 浮腫の原因点に直接照射 |
| 網膜裂孔 | 裂孔の周囲を焼き固め、網膜剥離を予防 |
| 網膜静脈閉塞症 | 新生血管の予防、黄斑浮腫への部分照射 |
| 未熟児網膜症 | 小児領域 |
| 加齢黄斑変性(古典的) | 現在は抗VEGFが主流、補助的に使われることも |
中高年で最も多いのは 糖尿病網膜症 と 網膜裂孔 に対する施行です。
種類
レーザー照射のパターンによっていくつかの方法があります。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 網膜光凝固(局所) | 特定の病変部に集中照射 |
| 網膜光凝固(汎網膜) | 網膜の周辺部全体に多数のレーザーを当てる。糖尿病網膜症の標準 |
| 格子状光凝固 | 黄斑浮腫の限局部に格子状に照射 |
| マイクロパルスレーザー | 弱い出力で照射、組織損傷を抑える新世代の技術 |
適応:こんな方に行う
糖尿病網膜症
- 増殖前糖尿病網膜症(網膜の毛細血管閉塞が広がってきた段階)
- 増殖糖尿病網膜症(新生血管が出現)
- 早期の糖尿病黄斑浮腫(限局型)
増殖前で予防的に行うか、増殖期に進んでから行うかは、患者さんの状態と担当医の判断によります。早めに行うほど効果が出やすいとされています。
網膜裂孔
- 散瞳眼底検査で網膜の穴(裂孔)が見つかった場合
- 飛蚊症の急増、光視症などをきっかけに発見されることが多い
- 網膜剥離に進む前 に予防的にレーザーで穴の周囲を固める
網膜静脈閉塞症
- 静脈閉塞後の新生血管発生のリスクが高い場合
- 黄斑浮腫に対して限局的な照射
手術の流れ
1. 術前準備
- 視力検査・眼圧検査
- 散瞳薬で瞳孔を広げる(待機時間20〜30分)
- 必要に応じて事前検査(OCT、蛍光眼底造影など)
2. 治療当日
- 点眼麻酔
- 専用のレンズを眼に当てる
- レーザーを照射(汎網膜光凝固の場合は1セッション 数百〜千ショット)
- 所要時間 片眼 10〜30分、外来で完結
- 汎網膜光凝固は 数回に分けて施行 することが多い(1〜2週間ごとに複数セッション)
3. 治療中の感覚
- 強いまぶしさ
- 軽い熱感、刺激感
- 「ピカッ」と光るのを感じる
- 多くは耐えられる程度の軽い痛み
- 痛みが強い場合は、結膜下麻酔や球後麻酔の追加可能
4. 治療後
- 当日は まぶしさ・視界のかすみ が残ることが多い
- 翌日には日常生活はほぼ可能
- 抗炎症点眼を1〜2週間使うことも
- 激しい運動は数日避ける
- 散瞳薬の影響で当日の運転は避ける
費用の目安
保険適用 です。3割負担の方の場合:
| 項目 | 費用イメージ |
|---|---|
| 1回のレーザー治療 | 約1万〜2万円 |
| 汎網膜光凝固(複数回必要) | 合計 約3〜6万円 |
| 高額療養費制度適用後 | 自己負担上限まで |
医療費控除の対象です。高額療養費制度を活用できます。
効果
期待できる効果
- 新生血管の発生抑制(糖尿病網膜症で重要)
- 網膜剥離への進行を防ぐ(裂孔治療で重要)
- 視野の維持
- 病変の安定化
期待できないこと
- すでに失われた視力の回復
- 糖尿病網膜症や加齢黄斑変性の根治
- 一度凝固した網膜は元に戻らない(意図的な処置)
「進行を止める治療であって、回復させる治療ではない」という理解が、納得して治療を受ける鍵になります。
リスク・合併症
| リスク | 頻度・対処 |
|---|---|
| 視野の小さな欠損 | 凝固部分は機能を失うため、汎網膜光凝固では周辺視野が少し狭くなる |
| 黄斑浮腫の悪化 | まれ、ステロイドや抗VEGF併用で対処 |
| 暗順応の低下 | 暗いところで見えにくくなる方も |
| 一時的なまぶしさ | 数日〜数週間で改善 |
| 視力低下 | 適切に行えばまれ |
| 眼内出血 | まれに |
特に 汎網膜光凝固後の周辺視野の軽い狭まり は知っておくべきです。「視野が少しせまくなったけれど、増殖糖尿病網膜症や失明のリスクを大きく下げられた」という、デメリットを上回るメリットがある治療です。
メリットとデメリット
| メリット | 外来で短時間 / 保険適用 / 進行抑制効果が確立 / 合併症は限定的 |
| デメリット | 治療中のまぶしさ / 視野が少し狭くなることがある / 視力は戻らない / 複数回の通院が必要 |
よくある質問
Q. 網膜光凝固は痛いですか?
A. 軽い痛み・まぶしさを感じることが多い です。多くの方は耐えられる範囲ですが、痛みに敏感な方や治療範囲が広い場合は、結膜下麻酔や球後麻酔を追加することで楽になります。担当医に相談してください。
Q. レーザー治療で視力は回復しますか?
A. 回復させる治療ではありません。網膜光凝固は「進行を止める・合併症を防ぐ」治療です。すでに視力が落ちている部分が、レーザーで戻ることはありません。だからこそ、早期に行うことが大切です。
Q. 何回くらいレーザーを受ければよいですか?
A. 疾患と進行度によります。網膜裂孔1か所なら1回で済むことが多いですが、汎網膜光凝固は 2〜4回に分けて行う ことが一般的です。糖尿病網膜症は治療を続けていく性格の病気で、必要に応じて追加照射を行うこともあります。
Q. レーザー治療後、運転はできますか?
A. 散瞳薬の影響で当日の運転は避けてください(検査後3〜4時間はまぶしさが残ります)。翌日からは通常通り運転可能ですが、夜間運転の見え方に少し違和感が出る方もいます。
Q. 糖尿病で「もうレーザーが必要」と言われました。怖いです…
A. レーザーが必要な段階は、確かに病気が進んできているサイン です。けれど、レーザーは進行を止めるための積極的な手段であり、「ここでしっかり進行を止めれば、視力を長く保てる」という前向きな治療です。怖がる気持ちは自然ですが、放置のほうがはるかに危険です。
Q. 抗VEGF注射とレーザー、どちらが先?
A. 病状に応じて使い分けます。糖尿病黄斑浮腫には抗VEGF注射が第一選択、増殖糖尿病網膜症にはレーザーが基本、両方を組み合わせることもあります。担当医が個別に判断します。
Q. レーザー後にスポーツ・運動は制限されますか?
A. 激しい運動は数日避ける のが基本です。それ以降は日常的な運動は問題ありません。ただし、強い衝撃のあるコンタクトスポーツは、担当医と相談してください。
網膜光凝固は、糖尿病網膜症や網膜裂孔の進行を食い止める標準治療 です。「治す」治療ではなく「進行を止める」治療なので、早期に行うことが視力を守る最大のポイントです。
特に糖尿病をお持ちの方は、症状がなくても定期的な眼底検査 を受け、レーザーが必要な段階が来たら遅れずに治療を受けることをおすすめします。
関連疾患の詳細は 糖尿病網膜症の解説ページ、網膜剥離の解説ページ もあわせてご覧ください。